パソコンの説明書やコンピューター・ネットワーク関連の雑誌を見ているとカタカナの専門用語がたくさん出てきますが、雑誌の種類によって表記がバラバラだと感じたことはないでしょうか?
最もわかりやすいのがカタカナ用語末尾の長音表記の有無で、例えば、コンピュータとコンピューター、ユーザとユーザー、ドライバとドライバーなど、会社やメーカーによって長音が付いていたり付いていなかったりします。
今回はこのようなパソコン関連用語のカタカナ表記がメーカー毎に異なる理由を解説したいと思います。
JIS(日本工業規格)のガイドライン
日本工業標準調査会が定める日本の国家標準の一つであるJIS(日本工業規格)の規格票の様式及び作成方法(規格番号:JISZ8301)によると、アルファベットをカタカナで表記する場合、「2音の用語は長音符号を付け、3音以上の用語の場合は長音符号を省く」というルールが定められています。
具体的な例に置き換えると、「Key」や「Color」は長音を付けて「キー」「カラー」と表記し、「Computer」や「Printer」「コンピュータ」や「プリンタ」と表記するということです。
工業分野の書籍や製品でカタカナの長音を省略してことが多いのは、この日本工業規格をガイドラインとしているためであり、2017年1月現在でもApple、NEC、富士通などをはじめとした工業製品のメーカーはこの表記ルールを採用しています。
文化庁によるガイドライン
一方、1991年に発表された内閣告示「外来語の表記」によると「英語の語末の‐er,‐or,‐arなどに当たるものは原則としてア列の長音とし長音符号を用いて書き表す」とされています。
この影響からか、JISのガイドラインも2005年以降は「長音は用いても省いても誤りではない」という内容に修正されています。
マイクロソフトのポリシー変更による影響
マイクロソフトは2008年7月に発表したプレスリリース「マイクロソフト製品ならびにサービスにおける外来語カタカナ用語末尾の長音表記の変更について」で、従来のJISに準拠した表記ルールから長音を付けるルールに変更することを発表しました。
コンピューター業界の巨人であるマイクロソフトの方針転換は、先述のJISや文化庁のガイドラインよりも業界全体に大きなインパクトを与えることになり、以降はニュースや雑誌でも表記を統一するために長音を付ける表記が多くなりました。
まとめ
以上、なぜパソコン関連用語のカタカナ表記がメーカー毎に異なるのかという理由を紹介しました。
簡単にまとめると、もともと各社ともJISに準拠してカタカナ語尾の長音は省略する表記を採用していたが、マイクロソフトが表記ルールを変更した2008年前後から長音を付けた表記がスタンダード化しつつある、というのが現状のように観察されます。
パソコンメーカーのウェブサイトや説明書などなどはまだまだ「長音を省略する派」が圧倒的多数なので、「マイクロソフトのパソコンに対応したNEC製のモデムルーター」などの記事を書く時には、マイクロソフトに寄せて「ルーター」にするか、NECに寄せて「ルータ」にするか悩ましいところだと思います。
いずれにしても「読み手が理解しやすい」ということが最も大切なことなので、仕事のメールや報告書などを書くときにも変にルールに振り回されず、出来る限り統一性のある表記を心がけるようにしたいものです。
ちなみに、日本工業規格は「JIS規格」と呼ばれることもありますが、「JIS」は「Japanese Industrial Standards」の頭文字を取ったものなので、「JIS規格」を訳すと「日本工業規格規格」となり重複するため、「JIS規格」と呼ぶのは誤りであるとする人もいます。であるにもかかわらず、「JIS規格」という呼称は既に一般化しており、規格の名称自体がこのような状況では、工業製品のカタカナ表記が統一されないことも無理のない話だと思います。